自営業で始めたビジネスの売上が上がってくると、法人化しようか悩む方もいるのではないでしょうか?
この記事では、個人が法人化する良い面と悪い面について具体的に解説していきます。
法人化とは何?
法人化とは、自営業を廃業し新たに会社をつくることです。法人化は、別名「法人成り」とも呼ばれます。
昨今、特定の組織に属せずに働く”フリーランス”が有名になってきました。とは言え、個人だと融資が受けづらかったり、契約が切られやすかったりといった側面があります。日本では、企業と比較すると個人事業主の方が信頼が薄いのはどうしようもない事実なのです。
しかし、個人が法人化して会社をつくることで社会での信頼をと得られる機会が増えます。場合によっては、個人では難しかった事業資金の調達や他社との取引が可能になり、事業を大きく成長させることもできます。
”企業”は信頼性を高める武器になるというわけです。
ただし、法人化すると事務作業などの手間が増える悪い面もあります。良い面と悪い面の両方をしっかり把握して、会社をつくることを検討してみましょう。
個人事業主が法人化する3つのメリット
個人が企業を興す利点を3つ紹介します。
法人成りの利点3つ ① 節税効果が大きい ②欠損金を10年間繰り越せる ③信用が上がり事業資金を調達しやすくなる |
細かく解説していきます。
①節税効果が大きい
個人の利益が一定額を超えている場合、法人化した方が税制面で有利です。
なぜなら、売上が一定額を超過すると法人税率が一定になるからです。
個人の所得税は、所得が増えれば増えるほど税率が高くなる”累進課税”が適応されます。一方、法人税率は、所得が800万円を超過すると一律23.2%となります。
<所得税の速算表>
所得金額 |
税率 |
控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円超え~330万円以下 |
10% |
97,500円 |
330万円超え~695万円以下 |
20% |
427,500円 |
695万円超え~900万円以下 |
23% |
636,000円 |
900万円超え~1,800万円以下 |
33% |
1,536,000円 |
1,800万円超え |
40% |
2,796,000円 |
上記の表から分かるように、1,800万円を超過した所得金額は40%もの所得税がかかります。
所得税率の累進課税とは異なり、法人税率は以下のように計算されます。
<法人税の税率>
所得の区分 |
法人税率(平成31年4月1日以降) |
年800万円以下の部分 |
15%(適用事業者以外) |
年800万円を超える部分 |
23.2% |
法人税は、800万円を超過した税率は23.2%で固定されます。
一方個人だと695万円を超過すると税率は23%、900万円を超過した場合33%です。
一概には言えませんが、年の課税所得が800万円を超過するのであれば、個人事業主よりも企業の方が税制面で有利です。節税を考慮して会社をつくることを考えている方は、一度税理士に相談してみましょう。
②欠損金を10年間繰り越せる
会社をつくると、欠損金の10年間繰越が可能です(平成30年3月31日以前の事業開始年度は9年間)。
個人の場合は、純損失の繰越は3年間のみです。そのため、企業の方が繰越期間が7年間長いです。
そもそも欠損金とは、「益金-損金=所得」がマイナスになった状態です。要するに、当期の事業が赤字になっているわけです。
(益金や損金とは、税務上の”収益”や”費用”のことです。厳密に言えば、「益金」と「収益」は異なります。しかし、収益・費用でイメージしても問題ありません)
翌年度以降に赤字を繰越せば、課税所得を減らせます。そして、課税所得を減らすと法人税を節税することができます。
例えば、以下のような売上を想定します。
当期:1,000万円の赤字
翌期:400万円の黒字
翌々期:800万円の黒字
よって、各事業年度の課税所得は以下のように計算されます。
当期:0円(=法人税は0円)
翌期:400万円-400万円=0円(=法人税は0円)
翌々期:800万円-600万円=200万円
翌期は課税所得が400万円なので、当期の赤字分で賄われるため、課税所得が0円となります。
翌々期も、600万円(赤字分)が控除されるので、課税所得は200万円になっています。
事業年度で大きな赤字が出ても、長い年度に渡って節税効果を生み出せます。また、企業の場合は個人事業主よりも長く10年間の繰越が可能です。
ただし、欠損金の繰越や繰戻をする場合には、青色申告の申請が必要です。繰越を受ける場合は、会社設立から3ヵ月以内に所轄の税務署に届出ましょう。なお、最初の事業年度が3ヵ月未満の場合は、事業年度終了日までに届出が必要です。
③信用が上がり事業資金を調達しやすくなる
会社をつくることで、個人よりも事業資金の調達が容易な傾向にあります。
なぜなら、個人よりも社会的信用が上がるからです。
当然ですが、企業の方が金融機関から信用を得られるため、個人では受けられなかった融資も企業ならば可能なケースもあります。
法人化したばかりの企業が資金調達で利用したいのは日本政策金融公庫です。
特に、起業家におすすめなのが日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。
新創業融資制度のポイントは、起業家に積極的に資金調達できる点にあります。
新創業融資制度の概要は以下の通りです。
<新創業融資制度の概要>
利用条件 |
以下の1~3を全て満たす場合 3 創業資金額の内、自己資金が10分の1以上ある |
資金の使い道 |
設備資金及び運転資金 |
融資限度額 |
3,000万円(内、運転資金1,500万円) |
担保・保証人 |
原則不要 |
※日本政策金融公庫HP「新創業融資制度」より作成
企業になると事業用資金を調達しやすくなるので、個人で軌道に乗ってきた時に会社を作ると、事業を拡大するチャンスが生まれます。
個人事業主が法人化する3つのデメリット
続いて、個人が法人化するデメリットを3つ紹介します。
法人化のデメリット3つ ①赤字でも法人住民税の支払いが必要 ②社会保険への加入義務がある ③税務処理などが複雑になる |
細かく解説していきます。
①赤字でも法人住民税の支払いが必要
「法人住民税の均等割」を、法人の場合は赤字でも都道府県に支払う義務があります。
均等割とは、「法人の誰にでも等しく発生する税金」のことです。
個人の場合、課税所得がない年の住民税は0円でした。
しかし、赤字になっても、法人は法人住民税を支払う義務が生じます。
均等割額(法人住民税)は、資本金と従業員数に応じて決まります。
例えば、東京の23区に登記して事業を行った場合、以下の通り均等割額が決まります。
<都民税均等の税率表>
資本金 |
事務所の従業員数 |
均等割額 |
1,000万円以下 |
50名以下 |
70,000円 |
50名超 |
140,000円 |
|
1,000万超~1億円以下 |
50名以下 |
180,000円 |
50名超 |
200,000円 |
つまり、法人都民税で7万円を、赤字でも支払う義務があるということです。
このように、個人だと赤字で支払わなくて済んだ税金を、法人では赤字に関わらず支払わなければなりません。
②社会保険への加入が必須
法人は個人事業主とは異なり、社会保険加入が強制です。
なぜなら、法人は社会保険の「強制適用事業所」の対象だからです。
個人事業主で誰も雇用していない場合は、社会保険加入の義務はありませんでした。しかし、法人の場合は、例え自分1人であっても社会保険への加入が義務付けられます。
法人で加入が義務付けられている社会保険は、以下の通りです。
<法人が加入する社会保険の一例>
社会保険の種類 |
費用負担 |
健康保険 |
事業主と被保険者で折半 |
厚生年金 |
事業者と被保険者で折半 |
労働者災害保険※ |
全額事業主が負担 |
雇用保険※ |
事業者が労働者よりも多めに負担 |
(※従業員を1名でも雇用した場合、加入義務あり)
法人化すると、”法人”と”個人”は別の人格として扱われます。
なので、例えば、社長の厚生年金は会社と個人のそれぞれのお金から支払います。
このように、法人化すると社会保険のコストが増えるデメリットがあります。
③税務処理などが複雑になる
法人が自分の力のみで税務や経理などの業務を行うことは、困難を極めます。
なぜなら、法人の税務会計は個人事業主と比べてかなり複雑化しているからです。
個人事業主の場合は、税理士に頼ることなく1人で会計処理をする方も多いです。青色申告を選択した方でも、日々の記帳業務から確定申告の書類作成まで、市販の会計ソフトがあれば簡単に行うことができます。
しかし、法人となると会計業務が一気に煩雑化します。
個人事業主だと1人でできたことが、法人だと困難を極めます。
そこで法人設立後は税理士と契約する方がほとんどです。経理業務のコストが増えるデメリットが挙げられます。
法人化で失敗しないための3つのポイント
ここからは、法人化する上で知っておきたいことを3つ紹介します。
法人化で法人化する上で失敗しないための3つのポイント ①特別な手続きは専門家に頼る ②従業員をたくさん雇わない ③法人化で免税期間を伸ばす |
①特別な手続きは専門家に頼る
法人化で失敗しないためのポイントは、自分でできない特別な手続きは専門家に頼ることです。専門家に業務を委託する方が、コストパフォーマンスが良い場合があります。
法人化すると経費の削減ばかりを考えがちになります。しかし、税務処理やホームページ(HP)作成などを全てを自分でやろうとすると、本業に集中できなくなります。
時には業務を委託する方が、コストが掛からないことが多いです。
以下は、法人化した時に頼りたい専門家の一例です。
<専門性が高い業務の一覧>
委託する業務 |
人材 |
確定申告や節税対策など |
税理士 |
法務リスクを回避したい |
弁護士 |
経営戦略を立てたい |
経営コンサルタント |
労務関係の事務作業など |
社会保険労務士 |
ホームページ(HP)の作成 |
ウェブデザイナー |
専門知識が必要な業務は全て自分でやろうとはせず、各専門家に外注するようにしましょう。
②従業員をたくさん雇わない
法人の社長になると、ついつい従業員をたくさん雇いたくなります。
しかし、従業員を多く雇用するとコストが経営を圧迫してしまいます。
従業員1人を雇うと、以下のような費用が発生します。
<従業員の雇用にかかる費用の一例> ・給料 ・雇用保険 ・労災保険 ・健康保険 ・厚生年金 ・介護保険 ・福利厚生 等々 |
日本の法律上、一度採用した従業員を解雇するのはとても難しいですが、経営が苦しい時に悩まされるのも人材関連です。
ただし、ビジネスを広げるには従業員が欠かせません。
システムの導入や一部の業務を外注するなどして、必要な雇用のみに留めるのが賢明です。
③法人化で免税期間を伸ばす
個人事業主が納税義務者になる前に法人化すると、免税期間を伸ばすことが可能です。
なぜなら、原則として、法人化から2年間は消費税を納付する必要がないからです。
法人がモノ・サービスを提供して代価を貰う際、消費税を一旦預かります。
そして確定申告の際に、預かった消費税から既に支払った消費税を除いて国に納付します。
しかし、この預かった消費税を国に納付する必要のない事業者があります。消費税納付を免除された事業者を「免税事業者」と言います。
以下の1、2の両方の要件を満たすことで、個人事業主は国へ消費税を納付する必要がなくなります。
<免税事業者の個人事業主になる要件>
1 前々年の課税売上高が1千万円以下 2 前年の1/1~6/30までの課税売上高が1千万円以下 |
また、法人もほぼ同様に、以下のA、Bの両方の両方の要件を満たすことで免税事業者になります。したがって、2の要件を満たさない限り、開業してから2年間、個人事業主は免税事業者です。
<免税事業者の法人になる要件>
A 前々の事業年度の課税売上高が1千万円以下 B 前々年の事業年度開始日から6ヶ月間の課税売上高が1千万円以下 |
よって、個人事業主で前々年の売上高が1千万円を超える手前で法人化すると良いでしょう。
法人化すれば個人事業主の扱いが一度リセットされ、法人として最初の2年間は免税事業者になります※。一度個人事業主を廃業し事業を新しく始めることになるからです。
法人化のタイミングを決めあぐねている方は、「前々年の課税売上が1千万円オーバーになる手前」がチャンスです。
ただし、注意してほしいのが、課税事業者の期間中に廃業すると廃業日までの消費税申告が必要になる点です。少しでも消費税を支払いたくない場合は、「前々年の課税売上が1千万円を超える前」に法人化しましょう。
※ただし、Bの要件を満たせば、2年を経たずに納税義務者になります。
まとめ
個人事業主としてある程度軌道に乗ってきたら、法人化でビジネスを広げるチャンスです。
ただし、法人化に伴ってコストや事務作業の手間などが増えます。
法人化する時に無計画ではいけません。綿密な資金計画や事業計画を立てるようにしましょう。時には自分1人で抱え込まずに、自分でできないことは専門家に相談したり、悩みは家族に相談したりすることが、法人化で失敗しないためのポイントです。
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